関谷俊郁(中央大学博士課程後期)

 2018年6月27日から8月2日にかけてハワイ沖で実施されている環太平洋合同演習「リムパック2018」に、陸上自衛隊が今回初めて参加している。陸上自衛隊から12式地対艦ミサイル部隊が参加しているが、その狙いは一体何なのであろうか。狙いには大きく分けて2つのものがあると思われる。
 1つめが、中国軍の「接近阻止/領域拒否(以下、A2/AD)」能力の中核をなす対艦弾道・巡航ミサイルへの対抗訓練である。様々なところで指摘されている米空母の脆弱性を高めている中国軍の対艦弾道・巡航ミサイルに対し、どう対処していくのかという米海軍の課題を克服する狙いがあるとみられる。
 2つめの狙いは、中国が積極的に進めているA2/AD能力を用いた米水上艦艇への攻撃手法を、中国と対立している国家が取り入れ、中国に対抗することが出来るようにすることである。本記事では、この2つめの狙いを詳しく論じていく。
 中国のA2/ADに対抗するための構想として、エアシー・バトルやJAM―GC構想が近年米軍内で生み出されているが、これらの作戦構想は、明確なレッド・ラインが存在しない米中関係においては、非常に莫大なリスクとコストがかかるという指摘がされている。また、間接的アプローチである海洋拒否や遠距離封鎖といった構想も存在するが、これらに関しても、封鎖される海域に存在する沿岸国への経済的負担が増えるにもかかわらず、それらにどう対処していくかという議論がほとんどないという問題点もある。
 そこで、エアシー・バトル構想や間接的アプローチに代わるものとして、「Active Denial」といった戦略が提唱されている。同戦略においては、平時において、中国による海域・空域支配を拒否するために、中国周辺国のA2/AD能力向上をアメリカが支援するというものである。今回、南シナ海周辺国のうちフィリピン、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、シンガポール、タイ、そして初参加のベトナムが含まれているが、これらの国家が中国の海洋進出に対し、水上艦艇などの同様の能力で対抗出来ないことは明らかである。そこで、中国が米軍に対して用いているようなA2/AD能力を用いた戦略を、これらの国家にも採用させることができれば、低いコストで中国の海洋・空域支配を達成可能となる。今回のリムパックを通じて、そのノウハウをこれらの国家で共有できれば、これ以上ない収穫となるであろう。  以上のことから、今回の陸上自衛隊12式地対艦ミサイル部隊の参加は、中国のA2/AD能力への対抗と、中国に対してA2/AD能力を活用するという二面性のためであることが言えるだろう。