(川上高司 外交政策センター理事長・拓殖大学海外事情研究所所長)
新型コロナウイルスの影響が世界経済に出始めている。アメリカでさえ株価は大きく下落、2008年のリーマン・ショックを超えるのではないかとの懸念が世界を覆っている。トランプ大統領の再選は、アメリカ経済が好調であることが前提である。ここで経済が失速すれば再選は危うい。トランプ大統領はすかさず所得税の減税を発表したため、市場は持ち直した。さすがはビジネスマンである。
だが、そんなアメリカ経済に宣戦布告をしたのがロシアである。3月6日、OPECプラスが開いた会議では協調減産が議題だったが、ロシアが減産を拒否、増産に踏み切る方向へ舵を切った。さらにサウジアラビアも減産をやめて増産する方向へ転換すると発表した。新型コロナウイルスで中国経済の失速が懸念され、石油最大の消費国であり輸入国である中国の原油輸入が鈍るとの懸念に加えての増産であるため、石油価格は一気に下落、30ドル台にまで落ち込んだ。
石油価格の下落で最も影響を受けるのが、今や世界1の原油輸出国となったアメリカである。シェールオイルは採掘コストが高く、原油価格が1バレル40~50ドルでなければ利益が出ない、と言われている。しばらくは持ちこたえることができても、原油価格が30ドル台で低迷すれば、シェールオイル企業の半分は破綻するとの予測が出ている。そうなればアメリカ経済が打撃を被ることは間違いない。
「1バレル20ドルでもロシア経済はやっていける」とプーチン大統領が述べたことからわかるように、ロシアは明らかに原油価格戦争をアメリカに宣戦布告した。ロシアは度重なるアメリカの経済制裁に長年耐えてきて、ロシア経済はそのたびに強くなってきた。トランプ大統領がたびたび邪魔をしてきたノルド・パイプラインも自力で完成にこぎつける。ロシアが仕掛ける価格戦争は壮絶な戦いになる。
アメリカの誤算は、盟友であるサウジアラビアの変心であろう。サウジアラビアはロシアと違い、石油価格が低迷すれば国家財政の破綻の可能性が高まる。それでも増産に踏み切り価格戦争でアメリカに圧力をかける側に回ったことは、サウジアラビアとアメリカとの関係にも影を落とすことになる。
中国との貿易戦争、新型コロナウイルスとの戦いに加えて原油価格戦争にも直面し、今こそトランプ大統領の真価が問われる。